~体の中で起きている「見えない変化」を理解しよう~
「急浮上すると危険」の本当の理由
ダイビング講習では、
「ゆっくり浮上しましょう。」
と教わります。
では、なぜ急浮上してはいけないのでしょうか。
「減圧症になるから。」
もちろん、それも正しい答えです。
しかし、本当に大切なのは、
なぜ減圧症になるのかを理解することです。
その理由が分かると、
安全停止や浮上速度を守る意味も、これまでとは違って見えてきます。
体に溶けている窒素は見えない
ダイビング中、
私たちの体には窒素が溶け込んでいます。
でも、その窒素は気泡ではありません。
水に砂糖が溶けるように、
目には見えない状態で体の中へ溶け込んでいます。
この状態であれば、
特に問題はありません。
問題は、
浮上するとき
に起こります。
急に圧力が下がると何が起きる?
ダイビングを終えて浮上すると、
周囲の圧力は少しずつ下がっていきます。
すると、
これまで体の中へ溶けていた窒素は、
今度は体の外へ出ようとします。
本来であれば、
窒素は
- 組織
- 血液
- 肺
という順番で移動し、
呼吸によって体外へ排出されます。
これが正常なオフガスです。
問題は「出口が渋滞すること」
ここでイメージしてみてください。
高速道路の出口が一つしかないのに、
大量の車が一斉に出口へ向かったらどうなるでしょう。
当然、
渋滞します。
体の中でも同じようなことが起こります。
急浮上すると、
大量の窒素が一度に体外へ出ようとします。
すると、
処理しきれなくなった窒素は、
気泡へ
と変わってしまいます。
この気泡が減圧症の原因になります。
気泡は血管だけではない
減圧症というと、
血液の中に気泡ができるイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし実際には、
気泡は
- 血液
- 筋肉
- 関節
- 神経
- 脂肪
など、
さまざまな場所に発生する可能性があります。
そのため、
症状も人によって大きく異なります。
減圧症の症状は一つではない
減圧症というと、
「関節が痛くなる」
というイメージがあります。
もちろん、
肩や肘、膝などの痛みは代表的な症状です。
しかし、それだけではありません。
初期症状として、
- 強い疲労感
- 手足のしびれ
- 皮膚のかゆみ
- めまい
- バランス感覚の異常
- 脱力感
などが現れることもあります。
さらに重症になると、
- 歩けない
- 排尿障害
- 呼吸困難
- 意識障害
など、
命に関わる状態へ進行することもあります。
「痛くないから大丈夫」とは限らない
実は、
減圧症は必ず痛みを伴うわけではありません。
「少し疲れているだけ」
「今日は眠いだけ」
そう思っていた症状が、
減圧症の初期症状だったという例もあります。
だからこそ、
ダイビング後の体調変化には注意が必要です。
普段とは違う違和感があれば、
「気のせい」と決めつけないことが大切です。
では、気泡ができたら必ず減圧症になるのか?
ここで一つ面白い事実があります。
最近の研究では、
ダイビング後、多くのダイバーの体内には小さな気泡が存在している
また、ダイビングをしていないときでも小さな気泡があることが分かっています。
しかし、
その全員が減圧症になるわけではありません。
このような症状を起こさない小さな気泡は、
サイレントバブル(無症候性気泡)
と呼ばれています。
つまり、
気泡があることと、
減圧症を発症することは、
必ずしも同じではありません。
この発見は、その後の気泡モデルなど、新しい減圧理論の発展につながりました。
減圧症は「急浮上だけ」が原因ではない
急浮上は大きな危険因子です。
しかし、
それだけではありません。
例えば、
- 脱水
- 寒さ
- 疲労
- 激しい運動
- 睡眠不足
- 飲酒
- 肥満
- 年齢
- ダイビングの繰り返し
など、
さまざまな要因が重なることで、
減圧症のリスクは高くなることが知られています。
だからこそ、
安全なダイビングは、
水中だけでなく、
潜る前から始まっているのです。
LOVE&BLUEが考える減圧症予防
私たちは、
減圧症を防ぐために最も大切なのは、
余裕を持ったダイビング
だと考えています。
- NDLぎりぎりまで潜らない
- 浮上を急がない
- 安全停止を丁寧に行う
- 十分な水分補給をする
- 疲れている日は無理をしない
どれも特別なことではありません。
しかし、
この「当たり前」を積み重ねることが、
最も効果的な減圧症予防になります。
減圧理論は、
怖がるために学ぶものではありません。
安全に、そして長くダイビングを楽しむために学ぶものなのです。
次回予告
減圧症とはまったく異なるメカニズムで起こる「肺の過膨張障害(AGE・肺圧外傷)」。
なぜ息を止めて浮上してはいけないのか、その本当の理由を解説します。
