~ダイブコンピュータは「あなたの体」を見ているわけではない~
ダイブコンピュータは本当に「減圧症を防ぐ機械」なのでしょうか?
今ではダイバーの必須器材となったダイブコンピュータ。
潜降すると自動的に潜水を開始し、
- 現在水深
- 潜水時間
- 浮上速度
- ノンデコンプレッションリミット(NDL)
- 安全停止
- 減圧停止
などを表示してくれます。
非常に便利な器材ですが、
実は、多くのダイバーが勘違いしていることがあります。
ダイブコンピュータは、あなたの体の中を測定しているわけではありません。
これは減圧理論を理解する上で、とても重要なポイントです。
コンピュータは体内の窒素を測っていない
「コンピュータの中にセンサーがあって、体内の窒素量を測っている。」
そのように思っている方も少なくありません。
しかし、
実際にはそんなことはできません。
ダイブコンピュータが測定しているのは、
とてもシンプルです。
- 水深
- 時間
- 浮上速度
- 水温(機種による)
- 使用ガス(設定した酸素濃度)
これらの情報だけです。
つまり、
体を測定しているのではなく、水中で起きた出来事を記録しているのです。
計算しているのは「仮想の人体」
では、
なぜ減圧停止が分かるのでしょうか。
それは、
コンピュータの中に
仮想の人体
があるからです。
例えば、
現在主流のビュールマンモデルでは、
人体を16個の組織(コンパートメント)に分けています。
それぞれに、
- 窒素が早く入る組織
- ゆっくり入る組織
- 抜けやすい組織
- 抜けにくい組織
を設定し、
水深と時間から、
「この組織には今どれくらい窒素が溶けているはずだ。」
と計算しています。
つまり、
コンピュータが見ているのは、
あなたではなく、理論上のダイバーなのです。
だから「予測」でしかない
ここがとても重要です。
ダイブコンピュータは、
実際の窒素量を測定しているのではありません。
数学モデルによる予測
を行っています。
だから、
表示されるNDLや減圧停止時間は、
「理論上、このようになるはず」
という計算結果なのです。
この精度は非常に高く、
現在のダイビングには欠かせないものですが、
100%実際の人体と一致しているわけではありません。
コンピュータには分からないこと
ここが、
ダイバー自身が管理しなければならない部分です。
例えば、
コンピュータには、
次のようなことは分かりません。
- 昨夜よく眠れたか
- 水分不足ではないか
- 前日の疲れが残っていないか
- ストレスを感じていないか
- 風邪気味ではないか
- 寒さで血流が悪くなっていないか
つまり、
体調だけは計算できない
のです。
だから、
コンピュータが「安全」と表示していても、
体調が悪ければ、
ダイビングを中止するという判断も必要になります。
ダイブコンピュータが違えば表示も違う
同じダイビングでも、
メーカーによって、
NDLや停止時間が少し違うことがあります。
これは故障ではありません。
理由は、
採用している減圧アルゴリズムや、
安全係数が違うからです。
例えば、
- ビュールマンモデル
- RGBM
- 独自アルゴリズム
など、
メーカーごとに考え方が異なります。
つまり、
どれも
「安全」を目指している
ことは同じですが、
安全へのアプローチが少し違うのです。
コンピュータは「止める」ための機械ではない
警告音が鳴ると、
「怒られた。」
と感じる方がいます。
しかし、
コンピュータは、
ダイバーを止めるための機械ではありません。
例えば、
浮上速度が速いとき。
NDLが少なくなったとき。
安全停止を忘れたとき。
コンピュータは、
「もう少し余裕を持ちましょう。」
と教えてくれているのです。
つまり、
安全をサポートするためのパートナーなのです。
テクニカルダイバーはコンピュータをどう使う?
テクニカルダイバーは、
ダイブコンピュータをとても信頼しています。
しかし、
依存はしていません。
なぜなら、
万が一故障した場合でも、
減圧を完了できるよう、
- ダイブプラン
- ガス計画
- ランタイム
- バックアップコンピュータ
などを準備しています。
つまり、
コンピュータは、
考える代わりではなく、
計画を確認するための道具
なのです。
「コンピュータどおり潜ったのに減圧症になった」
この話を聞いたことはありませんか。
これは、
コンピュータが壊れていたとは限りません。
前述したように、
コンピュータは、
理論上の人体を計算しています。
一方、
実際の人体は、
その日の体調によって変化します。
だからこそ、
減圧症は、
現在の最新コンピュータを使っていても、
ゼロにはなっていません。
このことを理解することが、
本当の意味でコンピュータを使いこなす第一歩になります。
ダイブコンピュータを「使う」のではなく「理解する」
ダイブコンピュータは、
ボタンを押せば使えます。
しかし、
本当に安全なダイバーは、
数字の意味を理解しています。
例えば、
NDLが残り5分なら、
「まだ5分潜れる。」
ではなく、
「そろそろ浮上を始めよう。」
と考えます。
GF設定を見ても、
数字だけを覚えるのではなく、
「安全マージン」
という考え方を理解しています。
この違いが、
安全なダイバーを育てます。
LOVE&BLUEが考える減圧コンピュータ
ダイブコンピュータは、
ダイビング器材の中でも、
最も優れた安全装備の一つです。
しかし、
どんなに性能が進化しても、
最後に安全を決めるのは、
ダイバー自身の判断です。
コンピュータは、
海況を知りません。
あなたの体調も知りません。
その日の疲れも知りません。
だからこそ、
私たちは、
コンピュータの数字だけを見るのではなく、
海を見て、
自分の体を感じ、
バディを確認し、
余裕を持ってダイビングを終えることを大切にしています。
それが、
減圧理論を実際のダイビングへ活かすということです。
そして、
その積み重ねが、
10年後、20年後も安全に潜り続けられるダイバーを育ててくれます。
次回予告
350年以上研究され続けてきた減圧理論。
それでも世界中で研究が続けられているのはなぜでしょうか。
次回は、「100%安全な減圧理論は存在するのか」という、多くのダイバーが一度は抱く疑問について考えていきます。
