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第19回 気泡モデルとホルデーンモデルの違い

~減圧理論は「溶けた窒素」を見るのか、「気泡」を見るのか~

「どの減圧理論が正しいのですか?」

テクニカルダイビングを学び始めると、

「ホルデーンモデル」

「ビュールマンモデル」

「RGBM」

「VPM」

など、さまざまな名前を耳にするようになります。

「結局、どれが一番安全なの?」

これは多くのダイバーが抱く疑問です。

しかし、その答えは意外なものです。

どの理論も『ダイバーを安全に浮上させる』という目的は同じです。

違うのは、

「何を基準に安全を考えているか」

なのです。


ホルデーンモデルとは?

1908年、

ジョン・スコット・ホルデーンは、

世界で初めて体系的な減圧理論を発表しました。

その考え方は、

とてもシンプルです。

ダイビング中、

体には窒素が溶け込みます。

浮上すると、

その窒素は体外へ排出されます。

問題になるのは、

窒素が安全に排出できる量を超えてしまうこと。

そこでホルデーンは、

人体を複数の組織(コンパートメント)に分け、

それぞれがどれだけ窒素を吸収し、

どれだけ排出するかを計算しました。

これが、

現在でも使われている

溶解ガスモデル

の始まりです。


「窒素は溶けている」という考え方

ホルデーンモデルでは、

窒素は

水に砂糖が溶けるように体へ溶け込んでいる

と考えます。

そして、

浮上すると、

少しずつ肺から排出される。

つまり、

窒素を安全に抜くこと

が減圧理論の中心でした。

この考え方は、

現在のビュールマンモデルにも受け継がれています。


気泡モデルとは?

一方、

気泡モデルは少し違う視点で考えます。

研究が進むと、

減圧症になっていないダイバーの体内にも、

小さな気泡が存在することが分かりました。

これが

サイレントバブル

です。

すると研究者たちは、

こう考えました。

「体には最初から小さな気泡の核があるのではないか。」

「減圧症は、その気泡が大きくなることで起こるのではないか。」

つまり、

気泡モデルでは、

気泡そのもの

を中心に減圧を考えます。


一番大きな違い

ここがポイントです。

ホルデーンモデル

「窒素をどう安全に排出するか」

を考える理論。


気泡モデル

「気泡をどう大きくしないか」

を考える理論。

つまり、

同じ減圧でも、

スタート地点が違うのです。


だから停止方法も変わる

この違いは、

減圧停止にも影響しました。

ホルデーンモデルでは、

比較的浅い場所で効率よく窒素を排出することも考慮します。

一方、

気泡モデルでは、

気泡が急に大きくならないよう、

深い場所から少しずつ停止する

ディープストップ

という考え方が生まれました。

どちらも、

減圧症を防ぐことが目的です。

しかし、

考え方が違えば、

停止方法も変わるのです。


では、どちらが正しい?

答えは、

どちらにも長所と限界があります。

ホルデーンモデルは、

100年以上にわたり改良され、

非常に信頼性の高い理論になっています。

一方、

気泡モデルは、

サイレントバブルという新しい発見から生まれ、

減圧理論をさらに発展させました。

しかし、

近年の研究では、

ディープストップを長く行い過ぎると、

逆に遅い組織へ窒素が蓄積しやすくなる可能性も報告されています。

つまり、

どちらか一方だけで、

すべてを説明することはできないのです。


現在主流なのは?

現在、

多くのダイブコンピュータでは、

ビュールマンモデル(ZH-L16)

を基本とし、

Gradient Factors(GF)

によって安全マージンを調整する方法が採用されています。

これは、

ホルデーン理論を発展させた、

現在最も広く使用されている減圧理論です。

一方で、

RGBMなど、

気泡モデルの考え方を取り入れたアルゴリズムも現在でも使用されています。

つまり、

現在の減圧理論は、

「ホルデーンか、気泡モデルか」

ではなく、

それぞれの長所を取り入れながら進化している

と言えるでしょう。


レジャーダイバーに必要なのは理論より基本

ここまで読むと、

「どのモデルのコンピュータを買えばいいの?」

と思うかもしれません。

しかし、

一般のダイバーにとって、

本当に重要なのは、

モデルの違いより、

基本を守ることです。

例えば、

  • 浮上速度を守る
  • 安全停止を行う
  • 水分補給をする
  • 無理なダイビングをしない
  • 呼吸を止めない

どの減圧理論でも、

これらは共通しています。

つまり、

安全を作るのは、

コンピュータではなく、

ダイバー自身なのです。


LOVE&BLUEが考える減圧理論

ホルデーンモデルも、

気泡モデルも、

「正しい・間違い」

で考えるものではありません。

どちらも、

その時代の最新の研究から生まれた、

大切な知識です。

そして、

現在も世界中で研究は続いています。

だからこそ、

私たちは、

一つの理論を信じ切るのではなく、

常に新しい知識を学び続け、

その上で、

基本を大切にしています。

減圧理論は、

難しい専門知識ではありません。

安全なダイビングを続けるための『考え方』です。

知識を身につけることで、

ダイブコンピュータの数字が意味を持ち、

安全停止の時間が意味を持ち、

そして、

一つひとつのダイビングに自信と余裕が生まれます。

それこそが、

LOVE&BLUEが目指す

「快適で安全なダイビング」

なのです。

次回予告

第20回「ビュールマンモデルとGF設定を理解する」

現在、多くのダイブコンピュータに採用されているビュールマンモデル。

そして、その安全マージンを決めるGradient Factors(GF)。

次回は、GF Low・GF Highの意味を含め、レジャーダイバーにも分かりやすく解説します。