~「深い場所で止まる方が安全」は本当なのか?~
ディープストップという言葉を聞いたことがありますか?
テクニカルダイビングの話をしていると、
「ディープストップ」
という言葉を耳にすることがあります。
以前は、
「減圧症を予防するためには、深い場所でも停止した方が安全」
という考え方が広く普及し、多くのダイバーが実践していました。
しかし現在では、その考え方は少し変わってきています。
では、ディープストップとは何なのでしょうか。
そして、今でも必要なのでしょうか。
今回は、減圧理論の進化とともに、その理由を分かりやすく解説します。
ディープストップとは?
ディープストップとは、
通常の減圧停止より深い位置で、短時間停止する方法です。
例えば、
40mまで潜った場合、
従来なら浅い水深から減圧を開始します。
一方、ディープストップでは、
20m前後など比較的深い場所で一度停止し、その後ゆっくりと浅い停止へ移っていきます。
つまり、
「早めに一度止まる」
という考え方です。
なぜディープストップが考えられたのか?
そのきっかけとなったのは、
**サイレントバブル(無症候性気泡)**の研究でした。
超音波検査によって、
減圧症になっていないダイバーの体内にも、
小さな気泡が存在していることが分かりました。
この発見から、
研究者たちは、
「浅い場所まで一気に浮上する前に、深い場所で少し停止すれば、気泡が大きくなるのを防げるのではないか。」
と考えました。
これがディープストップの始まりです。
気泡を「大きくしない」という考え方
従来の減圧理論では、
体に溶けた窒素を安全に排出することを重視していました。
しかし、
気泡モデルでは、
気泡そのものを成長させないこと
に重点を置きます。
例えば、
炭酸飲料を想像してください。
ふたを一気に開けると、
泡が勢いよく出てきます。
少しずつ圧力を抜けば、
泡立ちは少なくなります。
人体でも、
深い場所で一度停止することで、
小さな気泡の成長を抑えられるのではないかと考えられたのです。
一時は世界中で広まったディープストップ
2000年代に入ると、
VPM(Variable Permeability Model)やRGBM(Reduced Gradient Bubble Model)など、
気泡モデルを採用した減圧アルゴリズムが広まりました。
その影響で、
レジャーダイバーからテクニカルダイバーまで、
多くのダイバーがディープストップを取り入れるようになりました。
「深い場所でも止まる方が安全」
という考え方は、
当時のスタンダードになっていたのです。
ところが、新しい研究結果が…
その後、
多くの実験や研究が行われました。
すると、
意外なことが分かってきました。
深い場所で長く止まりすぎると、今度は遅い組織へ窒素が入り続けてしまう可能性がある
ということです。
つまり、
気泡の成長は抑えられても、
体全体の窒素量が増えてしまう場合があるのです。
その結果、
減圧症のリスクが必ずしも低くなるとは言えないことが報告されるようになりました。
現在の考え方
現在では、
「ディープストップは必ず行うべき」
という考え方ではありません。
多くのテクニカルダイビング団体やダイブコンピュータメーカーでは、
ビュールマンモデルにGradient Factors(GF)を組み合わせた減圧アルゴリズムが主流となっています。
つまり、
深い停止を極端に重視するのではなく、
体全体の窒素排出とのバランスを考えた減圧
が重視されるようになりました。
減圧理論は、
研究によって常に進化しているのです。
ディープストップは間違いだったの?
そうではありません。
ディープストップは、
その時代の最新の研究から生まれた、
とても重要な考え方でした。
そして現在でも、
潜水条件や使用する減圧アルゴリズムによっては、
ディープストップに近い停止が組み込まれていることもあります。
重要なのは、
「昔は正しかった」「今は間違い」
ではなく、
新しい研究結果を取り入れながら、安全性を高め続けている
ということです。
科学とは、
常にアップデートされるものなのです。
レジャーダイバーに関係あるの?
「私は30mまでしか潜らないから関係ない。」
そう思う方もいるかもしれません。
しかし、
ディープストップの議論から学べることがあります。
それは、
減圧理論には絶対の正解がない
ということです。
だからこそ、
ダイブコンピュータ任せではなく、
ゆっくり浮上し、
安全停止を丁寧に行い、
余裕を持ったダイビングを心掛けることが大切になります。
最新の理論を知ることも重要ですが、
基本を確実に実践することは、それ以上に重要なのです。
LOVE&BLUEが考えるディープストップ
私は、ディープストップは適切な浮上速度を維持することと考えます。
そして、
「なぜ、その停止を行うのか」を理解すること
を大切にしています。
減圧理論は、
350年以上にわたり研究が続いています。
新しい知見が得られれば、
考え方も変わります。
だからこそ、
一つの理論を絶対視するのではなく、
常に学び続ける姿勢が、
安全なダイバーへの第一歩です。
快適で安全なダイビングとは、
最新の知識と基本技術、
その両方を大切にすることから始まります。
次回予告
第18回「サイレントバブルとは? なぜ気泡があっても減圧症にならないのか」
超音波検査によって発見された「症状のない気泡」。
このサイレントバブルの発見は、減圧理論を大きく進化させました。
次回は、サイレントバブルとは何か、そして私たちのダイビングにどのような影響を与えたのかを解説します。
