~命を支える酸素が、なぜ危険になるのか?~
酸素は「多いほど良い」と思っていませんか?
私たちは酸素がなければ生きていくことはできません。
そのため、
「酸素が多いほど体に良い。」
と思われる方も多いでしょう。
しかし、ダイビングではその考え方は当てはまりません。
実は、
酸素は圧力が高くなると毒性を持つことがあります。
これを
酸素中毒(Oxygen Toxicity)
といいます。
だからこそ、ナイトロックスやテクニカルダイビングでは、酸素濃度だけではなく「酸素分圧(PO₂)」を管理することが重要になります。
酸素そのものが悪いわけではない
まず理解していただきたいのは、
酸素は危険なガスではありません。
陸上では、
私たちは毎日約21%の酸素を問題なく呼吸しています。
では、
何が変わるのでしょうか。
答えは、
圧力です。
ダイビングでは深く潜るほど周囲圧力が高くなります。
つまり、
同じ32%の酸素でも、
水深が深くなるほど、
体へ取り込まれる酸素の量は増えていくのです。
大切なのは「酸素濃度」ではなく「酸素分圧」
初心者の方は、
酸素濃度だけを気にしてしまいます。
しかし、
ダイバーが管理するのは
酸素分圧(PO₂)
です。
酸素分圧とは、
酸素濃度 × 周囲圧力
によって決まります。
例えば、
空気(酸素21%)でも、
十分深い場所まで潜れば、
酸素分圧は高くなります。
一方、
EAN32は酸素濃度が高いため、
より浅い深度で同じ酸素分圧へ達します。
つまり、
酸素濃度だけでは安全性は判断できないのです。
なぜ危険なのか?
酸素分圧が高くなり過ぎると、
体内では活性酸素が過剰に発生し、
神経へ影響を及ぼすことがあります。
特に怖いのが、
中枢神経型酸素中毒(CNS Oxygen Toxicity)
です。
水中では、
前触れなく発症することもあり、
非常に危険です。
水中では何が起こるの?
中枢神経型酸素中毒では、
次のような症状が現れることがあります。
- 視野が狭くなる
- 耳鳴り
- 顔の筋肉のけいれん
- 吐き気
- 不安感
- めまい
そして最も危険なのが、
全身けいれん(痙攣)
です。
水中でけいれんが起これば、
レギュレーターを外してしまったり、
呼吸ができなくなったりする危険があります。
そのため、
酸素分圧の管理は、
ダイビングにおいて非常に重要なのです。
MOD(最大行動深度)がある理由
ナイトロックス講習では、
必ず
MOD(Maximum Operating Depth:最大行動深度)
を学びます。
これは、
設定した酸素分圧を超えないための最大水深です。
例えば、
EAN32なら、
一般的な設定では約33m前後がMODになります。
つまり、
それ以上深く潜ると、
酸素分圧が安全範囲を超える可能性があります。
だからこそ、
ナイトロックスでは、
「何%の酸素か」だけではなく、
「どこまで潜るか」が重要になるのです。
テクニカルダイビングではさらに厳密に管理する
テクニカルダイバーは、
目的によって酸素分圧を使い分けています。
例えば、
作業中と減圧中では、
許容する酸素分圧を変えることがあります。
これは、
減圧効率と安全性のバランスを考えているからです。
つまり、
酸素は
「多ければ良い」
でも、
「少なければ安全」
でもありません。
状況に応じて最適な酸素分圧を選択すること
が重要なのです。
酸素100%は一番安全?
「酸素100%なら最高では?」
そう思うかもしれません。
確かに、
酸素100%は減圧効率を大きく向上させます。
そのため、
テクニカルダイビングでは、
減圧ガスとして広く利用されています。
しかし、
酸素100%を深い場所で吸うことは非常に危険です。
だからこそ、
通常は水深6m付近から使用します。
ここにも、
「酸素分圧」が深く関係しています。
ダイブコンピュータの設定を間違えると…
ナイトロックスを使用するとき、
ダイブコンピュータへ酸素濃度を入力します。
もし、
実際とは違う酸素濃度を設定すると、
MODも、
減圧計算も、
すべて間違ったものになります。
そのため、
- ガス分析
- コンピュータ設定
- バディチェック
は必ず自分で確認する習慣が必要です。
便利なコンピュータも、
入力が間違っていれば正しく計算できません。
LOVE&BLUEが考える酸素管理
酸素中毒という言葉を聞くと、
怖いイメージを持つかもしれません。
しかし、
正しい知識があれば、
必要以上に恐れるものではありません。
ナイトロックスも、
減圧ガスも、
CCRも、
すべて
酸素分圧を正しく管理する
という同じ考え方で成り立っています。
ダイビングは、
知識が増えるほど安全になります。
「酸素は命を支えるガス」
だからこそ、
正しく理解し、
正しく使うことが大切なのです。
次回予告
「お酒を飲んだような感覚になる。」
「深いほど楽しく感じる。」
そんな経験はありませんか?
次回は、多くのダイバーが経験する可能性のある「窒素酔い」の原因と対策について解説します。
