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第10回 飽和潜水とは? なぜ何日も海の中で生活できるのか

~減圧理論の究極形「飽和潜水」の世界~

「何日も海の中にいる」ダイバーがいることをご存じですか?

ニュースやドキュメンタリーで、

数百メートルもの深海で作業するダイバーを見たことはありませんか?

海底油田の設備工事や海底ケーブルの敷設などでは、

ダイバーが数日から数週間にわたって高圧環境で生活することがあります。

これが

飽和潜水(Saturation Diving)

です。

「何週間も潜り続けるなんて危険では?」

そう思われるかもしれません。

しかし実は、

毎日浮上と減圧を繰り返す方が、はるかに効率が悪く、体への負担も大きいのです。飽和潜水は、この問題を解決するために発展した潜水技術です。


飽和潜水は「ずっと潜っている」わけではない

まず誤解されやすいのですが、

飽和潜水では海底で生活しているわけではありません。

ダイバーは、

高圧環境に保たれた居住チャンバーで生活し、

作業のときだけ潜水ベルで現場へ移動します。

作業が終われば、

再び高圧チャンバーへ戻ります。

つまり、

体は常に同じ圧力環境に保たれているため、

毎日減圧する必要がありません。


「飽和」を利用した潜水方法

第5回で、

「飽和」とは、

それ以上窒素が体へ溶け込まない状態

だと学びました。

飽和潜水は、

この考え方をそのまま利用しています。

一定の深度圧力で生活を続けると、

やがて体はその圧力で完全に飽和します。

飽和すると、

それ以上長くその深度にいても、

体内の不活性ガスは増えません。


だから何日いても減圧時間は変わらない

普通のダイビングでは、

潜水時間が長くなるほど、

減圧時間も長くなります。

しかし、

飽和潜水では違います。

例えば、

体が完全に飽和したあと、

3日間作業しても、

10日間作業しても、

20日間作業しても、

最後に必要な減圧時間はほぼ同じです。

なぜなら、

体内の不活性ガスは、それ以上増えないからです。

これが飽和潜水最大のメリットです。


なぜレジャーダイバーは飽和しないの?

ここで疑問が出てきます。

「レジャーダイビングでも飽和するのでは?」

答えは、

ほとんど飽和しません。

人体には、

窒素を取り込む速さが違う組織があります。

最も遅い組織が完全に飽和するまでには、

理論上約72時間程度かかるとされています。

通常のレジャーダイビングは、

数十分から1時間程度です。

つまり、

完全な飽和に達する前に浮上するため、

私たちは毎回減圧を行う必要があるのです。


飽和潜水は「安全だから長く潜る」のではない

「飽和潜水なら安全なのでは?」

と思われるかもしれません。

決してそうではありません。

実際には、

飽和潜水は非常に高度な管理のもとで行われます。

例えば、

  • 呼吸ガスの管理
  • 酸素分圧の管理
  • 二酸化炭素の除去
  • 温度・湿度管理
  • 医療スタッフの待機
  • 緊急時の再圧設備

など、

徹底した安全管理が行われています。

そして最後には、

数日から1週間以上かけて、

ゆっくり減圧を行います。


飽和潜水から学べること

飽和潜水は、

一般のダイバーには縁のない世界かもしれません。

しかし、

その考え方は、

レジャーダイビングにも共通しています。

それは、

急いで窒素を抜こうとしてはいけない

ということです。

人間の体は、

時間をかけて窒素を排出するようにできています。

だからこそ、

ゆっくり浮上し、

安全停止を行い、

余裕を持ったダイビングをすることが大切なのです。


テクニカルダイビングとの共通点

テクニカルダイビングでも、

長時間の減圧停止を行うことがあります。

もちろん、

飽和潜水ほど長期間ではありませんが、

考え方は同じです。

体内の不活性ガスを、安全な速度で排出する。

そのために、

ガスを切り替え、

停止深度を守り、

減圧スケジュールを正確に実施します。

つまり、

レジャーダイビングからテクニカルダイビング、

そして飽和潜水まで、

基本となる減圧理論は共通しているのです。


LOVE&BLUEが考える「減圧理論」

減圧理論を学ぶと、

深く潜ることが目的ではないと分かります。

本当に大切なのは、

体の中で何が起きているかを理解し、それに合わせたダイビングを行うことです。

レジャーダイバーでも、

テクニカルダイバーでも、

考え方は変わりません。

余裕のあるダイブプラン。

余裕のある浮上。

余裕のある安全停止。

その積み重ねが、

長くダイビングを楽しめる一番の近道です。

次回予告

第11回「ナイトロックスは本当に安全なのか?」

「ナイトロックスは減圧症になりにくい。」

そんな話を聞いたことはありませんか?

本当にそうなのでしょうか。

次回は、ナイトロックスの仕組みとメリット・注意点を、減圧理論の視点から解説します。